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『シェノの独り言』

王国プローシアギではこの時期、
収穫祭という大きなイベントで盛り上がります。
多くの実りに感謝し、この時期に帰ってくるとされる死者の魂を迎え入れるというもの。
悪しき魂や、魔物を模した仮装をし顔を隠すのが習わしです。
そんな賑やかなイベントを前に憂鬱な表情を浮かべる青年がいました。
彼はシェノ。オレイノイに雇われるコーチマンです。
動物の気持ちを察することができる彼は、今日も動物たちのお世話をしていました。

「トト...いや、収穫祭は苦手だけど心の底から嫌なわけではない...ただ、死者の魂が帰ってくるなら...俺は...」

トトと呼ばれた鳥はシェノを見つめると首を傾げました。
シェノはトトを撫でながら空を仰ぎぼやきます。

「会いたいけど会いたくない...」

シェノは自分に優しくしてくれた祖母に逢いたいと思いながらもどこか逢いたくない気持ちを抱えていました。
それは、彼自身も分からない気持ちの迷いそのもの。
きっとシェノはオレイノイにいて、少しずつ人として成長したのかもしれませんね。

そして、収穫祭当日。
シェノは仲の良いアニャフィとはぐれ、とある青年と話した後、知らない少年に話しかけられます。

「お兄ちゃん、逢いたい人がいるの?なら、今会わないと、逢えなくなるよ」

「...え?」

そう言うと少年はニコリと笑いシェノの腕を掴みました。
思っていたより力強い力で引っ張られ、驚きます。
シェノは驚きながらもその驚きは表情には表れません。

「...待って、君は?」

「お兄ちゃん、こっちだよ、こっち!」

『ダメだよ、そのお兄ちゃんはまだこっちには来れないからね』

シェノは目の前にいる老婆に目が奪われました。

「え...」

『シェノ、大きくなったね。立派になったね。でも、知らない人について行ったらダメだとおばあちゃん、教えたよね?』

「あ...」

シェノの目の前に現れたのはシェノが7歳の時に亡くなった祖母でした。
口をパクパクさせながら驚くシェノに祖母はニコリと笑いかけました。

『頑張りなさい。楽しみなさい。シェノ、お友達を大切にするんだよ。動物も人間も。お前の宝になるからね。おばあちゃんはずーっとシェノのことを見守ってるよ』

そう言うと祖母の姿は見えなくなりました。
シェノはその場に立ち尽くし、ボーッとしていました。

「...ありがとう」

空を仰ぎシェノは独り言を呟きました。
友達は大事な宝になる。

end.

執筆者:相馬かなで

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